神経発達症(発達障害)とは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって、人とのコミュニケーションや学習などの日常生活に支障をきたす状態を指します。多くの場合、幼少期に気づかれることが多いですが、成人になってから顕在化するケースもあります。日本では、10人に1人の割合で神経発達症の傾向が見られるとされています。
神経発達症は、アメリカ精神医学会が作成したDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)に基づき、知的発達症、自閉スペクトラム症、コミュニケーション症群、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症、発達性協調運動症、その他の神経発達症に分類されます。特に小児によく見られるのは、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症などです。これらの神経発達症は、それぞれの境界が明確ではないため、複数の症状が重なることも少なくありません。
注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意や多動性・衝動性が特定の人や場面に限らず見られる状態です。男女比では男性が多く、2:1の割合です。小児の有病率は5~6%とされています。発症の原因は、ドパミンやノルアドレナリンなどの脳内伝達物質の不足が関与していると考えられています。また、自閉スペクトラム症や限局性学習症などの神経発達症を併発しやすいことも特徴です。
不注意とは、注意不足によるミスや忘れ物が多く、興味がないことには集中しにくい、片付けが苦手といった状態を指します。一方、多動性・衝動性とは、じっとしていられず手足を動かす、授業中に席を離れて歩き回る、順番を待てずに列に割り込むなどの行動が見られる状態です。なお、多動性・衝動性は成長とともに減少する傾向があります。
まずは、集中しやすい環境を整えることから始めます。具体的には、気が散る物を周囲に置かないようにします。また、取り組む作業(勉強)を一本化し、短時間の集中を繰り返すことで気が散りにくくします。さらに、保護者がADHDの子どもとの接し方を学ぶペアレントトレーニングや、社会生活で適切な行動を習得するソーシャルスキルトレーニングも重要です。周囲の理解と協力も必要となります。
非薬物療法だけでは改善が十分でないと医師が判断した場合、薬物療法も併用します。使用される薬には、メチルフェニデート、リスデキサンフェタミンメシル酸塩、アトモキセチン、グアンファシンの4種類があります。これらの薬は症状をコントロールしやすくするものであり、完治を目指す治療ではありません。
人とのコミュニケーションが難しい、特定の物に強い興味を示す、反復的な行動が見られる状態は、かつて広汎性発達障害と呼ばれていました。言葉の遅れがある場合は自閉症、言葉の遅れがない場合はアスペルガー症候群と分類されていました。現在では、これらの症状があると自閉スペクトラム症と診断されます。
有病率は1~2%とされ、男女比は4:1で男児が圧倒的に多いです。多くの場合、1歳過ぎから2歳頃に発症が気づかれます。発症の原因は完全には特定されていませんが、遺伝的要因が関与していると考えられています。
主な症状としては、コミュニケーションや相互的な人間関係に障害が見られます。例えば、他人と関わろうとしない(アイコンタクトをしない、親の後を追わない、興味のあるものに対する指差しが少ないなど)、人の気持ちを察することや状況に応じた判断ができないといったことです。
次に、興味が限定され、反復的な行動が見られます。例えば、同じおもちゃで長時間遊び続ける、体を揺らす、くるくる回るなどの単純な行動を繰り返すことです。
その他にも、感覚の異常(過敏または鈍感)、言語障害(言葉の遅れ、オウム返し、自分の意図をうまく言葉で伝えられないなど)が現れることがあります。
根治させる治療法はありませんが、周囲のサポートと療育、環境調整が中心となります。療育には、ソーシャルスキルトレーニングや本人の能力を最大限に活かすことが含まれます。環境調整では、やるべきことを図などで視覚的に示し、わかりやすく単純化します。また、予定していた行動を急に変更する際には、事前に丁寧にわかりやすく説明することが重要です。さらに、保護者や周囲の方々がASDを理解し、適切な接し方を学ぶことも大切です。
学習障害とも呼ばれますが、これは知的能力が正常であるにもかかわらず、特定の学習(読み、書き、計算など)において年齢相応のレベルに達していない状態が半年以上続く場合を指します。例えば、読みだけが苦手なケースもあれば、読みと計算の両方が苦手なケースなど、複数の学習分野で困難を抱えることもあります。
限局性学習症は、大きく3つのタイプ(読字障害、書字障害、算数障害)に分類されます。読字障害は、文章を正しく読むことや内容を理解するのが難しい状態です。書字障害は、文字を正しく書くことが難しく、板書を書き写す際に多くの間違いが見られるため、文字を書くこと自体を避けるようになります。算数障害は、九九を覚えられない、計算が困難、九九を覚えても応用が難しい、算数の文章題を理解できないなどの状態を指します。
診断を行うためには、知能検査をはじめ、視覚や聴覚などの器質的な異常の有無を調べるための画像検査(頭部CT、MRI)などを実施します。特に異常が見られない場合、限局性学習症と診断されます。
主に指導方法を工夫し、合理的配慮を行います。
例えば、読字障害の場合、音と文字を関連付けるトレーニングを行います。書字障害では、文字のバランスが悪い場合に大きなマス目のノートを使用したり、似た文字を間違える場合には違いを確認する訓練を行います。算数障害の場合、物を使って数や数字をイメージしやすくしたり、文章題を図やイラストに置き換えて理解しやすくする方法を取ります。
また、注意欠如・多動症が見られるお子さまには、薬物療法としてメチルフェニデートを使用することもあります。
成長とは、身長や体重、臓器など身体の量的な増加を指します。一方、発達は精神面(言語など)や運動などの機能的な成熟を意味します。この成長と発達を合わせた言葉が発育です。
発達と聞くと、多くのご家族が気にするのは発達障害に関することです。発達障害とは、先天的に見られる脳の機能障害を指します。そのため、育て方や環境が原因ではありませんが、日常のコミュニケーションや学習に支障をきたすことがあります。検査の結果、発達障害が判明すれば、周囲が適切に対応しやすくなります。一方、発達障害に気づかないままだと、お子さまは自分の行動で頻繁に叱られ、自信を喪失するなどの悪循環に陥る可能性があります。
発達障害の特性は、2~3歳頃から目立つようになると言われています。日々の生活の中で気になることがあれば、些細なことでも構いませんので、一度当クリニックまでご相談ください。
必要に応じて、運動、言語、身辺自立などの検査を行い、発達の状態を確認します。また、詳細な検査や治療が必要な場合には、より専門的な医療機関をご紹介いたします。